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僕が株式会社ではなくNPOで起業した理由

クロスフィールズが行なう事業のビジネスモデルは、企業に対して付加価値のある
プログラムを提供してその対価を頂くという、極めてシンプルなものだ。

それだけに、「なんで株式会社にしなかったの?」という質問をよく聞かれる。
これは非常に真っ当な質問で、実際、自分たちも組織形態をNPO法人にするのか
株式会社にするかということで、さんざん悩んだという経緯がある。

結局自分たちはNPO法人を選んだわけだが、起業して約1年が経ってみて、
自分たちの組織の特性を考えれば、これはとても正しい選択だったと改めて思う。

今日はちょっと、そう思う3つの理由について書いてみたい。


① 想いを同じくする仲間と一緒に事業を進めたい

NPO法人の名刺を出して挨拶すると「NPOって利益を出しちゃいけないんでしょ。大変だねぇ」と
色々な人に決まって言われるのだけれど、これは実は全くの誤解だったりする。

NPO法人に対する制約とは「利益を組織の構成員(役員・会員)に分配しない」というものであり、
利益が出たら、その分は社会的に意義のある事業にさらに投資するというのがルールだ。

NPOを"Nonprofit"と読むと、まるで「利益を出してはいけない組織」のように聞こえてしまうが、
NPO法人フローレンスの駒崎弘樹さんなどはNPOを"Not-for-profit"と捉えるべきだと主張している。
こう捉えると「NPOとは利益のためではなく、使命のために存在する組織」のように聞こえて、
僕としても、こっちの方がNPO法人の性質をきちんと表しているんじゃないかと思っている。

…と、少し前提の説明が長くなってしまったけれど、いずれにせよ、NPO法人を名乗るということは、
「お金のためではなく使命(ミッション)のために活動しているんです!」という明確なスタンスを
表明することに他ならないのだ。そして、このようにして自分たちのスタンスを表明することは、
ミッションに共鳴してサポートをして下さる方々と出会う確率は間違いなく高めてくれる。

実際、いまクロスフィールズがお世話になっているアドバイザーの方々の顔ぶれも、NPO法人としての
活動だからこそ実現したものだと思うし、メディアの方々からご関心頂くのも、NPO法人として
ミッションや志をベースにした活動をしているからこそ注目して頂いていることがとても大きい。
そして何より、スタッフや正会員として活動に参画してくれているメンバーたちも、やはりミッションに
共鳴してもらっているからこそ、熱くて前向きで最高な仲間たちが集まってくれるのだと思う。

この1年間を振り返ってみて、こうしたミッションに共感する仲間たちのサポートを結集することでこそ、
なんとかかんとか事業を進めてこれたのだと思う。そして、こうして多くの仲間たちのサポートを集める
上では、NPOの持つ「ミッションのための組織」という明確なメッセージが、大きな力になっている。


② 途上国のパートナーと同じ立場に立ちたい

2つ目の理由は、自分たちの事業の特性に紐付くものだ。

自分たちの運営する「留職」という事業は、途上国の団体とのパートナーシップなしには考えられない。
企業人を途上国のパートナー団体に派遣して業務にあたって頂くにあたって、仲介する立場にいる
自分たちが絶対に守らなければならないのは、現地の団体にとってプラスとになる活動になっている点だ。

これを実現するのは、実は簡単なことではない。自分たちが企業の側だけを向いて活動をしてしまえば、
企業側にはメリットがあるものの、現地の団体にとっては負担でしかないようなプログラムになりかねない。

だからこそ、自分たちがNPO法人という現地のパートナー団体と同じ立場に立つことで、
お金の出し手である企業に対しても、現地の声を代弁して"NO!"と言えるようになる必要があった。

僕たちはNPO法人という組織形態を取ることで、迎合しないという姿勢をハッキリさせたかったのだ。


③ NPOで働くことを、もっとカッコよくしたい

最後の理由は、自分たちの夢や想いといった要素が強い。

NPO法人で働くということは、残念ながら、現在日本の一般常識では当たり前の選択肢ではない。
NPO法人の名刺を出すと「それで、本業の方は何をされているんですか?」という、
あまりにも悲しい質問を投げかけられることだってあるのが日本社会の現状だったりする。

実際、ある調査によれば、日本のNPO法人の職員の平均給与は200万円を下回っているという。
これではNPOで働きたいと考える人の数がなかなか増えていかないということも納得できる。
どんなに強い志を持っていても、自分の今後のキャリアや養うべき家族のことを考えたら、
最低限の収入や、業務経験がキャリアとして認められるといったことは、とても大事なことだ。

クロスフィールズのビジョンの1つは、「企業・行政・NPOがパートナーとなる世界」の実現だ。

社会課題が複雑化・多様化していく日本において、社会課題を解決する専門家であるNPOの存在意義が
ますます高まっていくことは間違いない。でも、にもかかわらずNPOのセクターを支える人材が脆弱すぎる。
だから、NPOというセクターで働くことを、もっともっと魅力的にしていくことが必要だと僕は思っている。

そのためにも、まずは自分たち自身がNPO法人として事業を成功させ、
働きながら社会を変えていて、スキルも磨けていて、さらに十分にお金ももらえるような、
そんなカッコいい団体になり、この業界のロールモデルのような存在になりたいと思っている。

ちなみに、最後の最後でNPO法人での起業にしようと決意したのは、
ほとんどこの3つ目の理由だったりする。結局は、"ロジック"よりも"想い"なんですよね。



以上、僕がNPO法人での起業を選んだ3つの理由を書いたけれど、
もちろん何か決まった答えがあるわけではない。

大きな初期投資が必要なモデルだったり、事業拡大のために株式市場からの
資金調達が必要なんであれば、株式会社の方が圧倒的に使いやすいと思う。

大事なのは、自分がこれから進むべき道を見据えて、その道を走っている
自分を想像したときに、どっちの乗り物の方が走りやすいのかを考えることだ。

僕たちクロスフィールズにとっては、たまたまそれがNPO法人だった。
ただ、それだけなんです。


NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715

創発的破壊

ここのところ「若者の情熱で…」とか「C世代が…」とか、何かと若者世代の力を
強調するような言葉を発し続けている自分だけど、起業してからというもの、幸運にも、
こんなにカッコいい大人が日本にいたのかと思えるような尊敬できる人物にも出会っている。

その一人が、一橋大学イノベーション研究センター長の米倉誠一郎先生だ。

彼は、若者の無謀な挑戦を大いに応援してくれる、最高の大人だと思う。
実は先日、嬉しいことにクロスフィールズの特別顧問にも就任して頂いたのだが、
その時に頂いた応援メッセージは、すごく過激で、そして前向きなものだった。

米倉先生からのメッセージ

米倉先生の言説は、極めて前向きで、シンプルで、そして力強い。
今日は、そんな先生が最近書かれた著書を紹介したい。

後ろ向きな言葉は一切ない、最高にカッコいい本だ。

創発的破壊 未来をつくるイノベーション創発的破壊 未来をつくるイノベーション

稚拙な文章しか書けない自分が感想を書くことは本当に恐縮だが、
一方で、ぜひ自分の学びを確かにするためにも文章にしておきたいとも思い、
特に自分の胸に刺さったメッセージを、自分なりの言葉で紹介したい。


危機とは最大の変化を起こすチャンスである

少子高齢社会の深刻化、リーマン・ショック、そして東日本大震災と、いま、
日本社会はこれまでに経験したことのないような沢山の大きな危機に直面している。

これだけの危機に直面した状況においても、「経済が元通りになるには何年かかるのか」といった
疑問の声が聞こえているが、米倉先生に言わせれば、「元に戻らないし、戻してもいけない」のだ。

まだ使える自動車を数年で乗り換え、デジカメや携帯を何台も持ち、地球資源を犠牲にしながら
成長することを追い求めるような社会に戻るという後ろ向きの発想ではなく、
過去の延長線上にはない「新しい資本主義を創る」という気概こそが、求められている。

古い価値観を捨て、新しい時代を読み解く思考枠組みの大転換が、今こそが必要だ。


いまの日本に求められるのは「創造的破壊」ではなく「創発的破壊」

シュンペーターが唱えた、古い秩序を破壊して新しい秩序を創る「創造的破壊」とは、
少数の強烈なリーダーによって引き起こされることが連想される動きである。

しかし、アラブで現在進行形で起きているジャスミン革命とは、FacebookやTwitterを活用し、
特定のビジョンに向かって、個々人が小さな行動を起こしていくことで引き起こされている。
この革命には、強力なリーダーや革命組織は存在しておらず、主役は一人ひとりの個々人だ。

こうした個々人による革命を、米倉先生は「創発的破壊」と呼ぶ。

現在の日本社会は、経済・政治・社会・教育、あらゆる分野に課題を抱えている。
そして、一つ一つの課題が極めて複雑で、既存の仕組みで解決できるものではない。

こうした状況だからこそ、一人の英雄が現れて全ての問題を解決するのではなく、
無数のエンジニアやマーケター、そして社会起業家たち一人ひとりが
「創発的破壊」を多発的に起こしていく方法でこそ、日本は変われるのだ。

今の日本は課題が溢れる時代ではあるけれど、一方で、カリスマ的リーダーを待たなくても、
自分たち一人ひとりが変革の主役になれえてしまう、そんな可能性のある時代でもあるのだ。

だからこそ「現代の日本は最高に面白い」と、米倉先生は言う。


自分たちがやるべきこと

自分たちが起ち上げたクロスフィールズという組織が成し遂げようとしているのは、
留職という仕組みによって、日本の大組織で働く人たちを、
「社会の未来と組織の未来とを切り拓いていく変革のリーダー」に変えていくことだ。

閉塞感のある社会や組織、さらには既成概念といった枠を超える経験を提供することで、
「創発的変革」の主役となるリーダーたちを創っていくことが、僕たちのミッションだ。

米倉先生のようなカッコいい大人たちと一緒に、
あきれるほどに前向きに、そして我武者羅に、日本の未来を創っていきたい。

そんなことを、この本を読んで改めて強く誓うことができた。
オススメの本です。

米倉誠一郎先生との写真
(米倉先生と、先生の研究室にて)

NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715

「縁」から「絆」へ

5年ほど前から色々な形でお世話になっている、ロシナンテスというNGOがある。

北九州に本部を置き、高校のラグビー部のOB会が主な資金源に
なっているという、日本のNGOとしてはかなり異彩を放っている団体だ。

ロシナンテス

NPO法人ロシナンテスのウェブサイト

もともとはアフリカはスーダンでの医療活動を活動の柱とする団体だったが、
今は、活動分野を医療をベースにしながらも教育やスポーツなどにも広げ、
震災を機に、宮城県仙南地区での復興支援の活動もするようになっている。

見方によっては、「活動に一貫性がない」とか「行きあたりばったり」とか、
そんな感想も聞こえてしまいそうな、そういう活動をしている。

でも、実はここのところ、団体の経営幹部の方々とゆっくりとお話する機会に恵まれ、
その過程で、ロシナンテスの根底には、多くの人を惹きつけて離さない、
事業内容を超えた揺るがない信念が流れているということを痛感させてもらった。


ロシナンテスの活動は、代表の川原さんがたまたまスーダン大使館の
医務官として働いていた時に、目の前に困っている人を目にしたことで始まった。
今回の東北支援も、たまたまロシナンテスの医療チームが日本にいた際に
震災があったのがきっかけで、自然発生的に活動をスタートしたという経緯がある。

「ロシナンテスは目の前の困っている人たちとともに歩み続けるんだ」

そう経営陣が口を揃えていうように、ロシナンテスの活動には、たまたま出会った
目の前の人たちとの「縁」を大事にして、そして、その人たちとずっと一緒に寄り添って、
「縁」を「絆」になるまで育てていくという、とても強い行動規範が息づいている。

自分たちも含めて、会社を辞めてNPOの活動なんかをしていると、
「なぜそんな活動をしているのか?」とか「どうして今やっている活動が必要と思ったのか?」
といった質問を投げかけられたり、また、自問自答をすることがかなり多い。

もちろん、こうした質問に対して論理的にもっともらしい答えを用意することもできる。

でも一方で、そういう論理的な答えというのは基本的に後付けである場合が多いわけで、
ほとんどの場合、突き詰めて考えていってしまえば、人が何かをやりたいと思い立つのは
「たまたまご縁があったから」ということに落ち着いてくるのではないだろうか。

なんというか、このロシナンテスという組織は、気張っておらず、自然体なのだ。

そして、不思議なもので、僕を含めた多くの人間が、この組織の
そうした恐ろしいほどに真っ直ぐで愚直な姿勢に惚れて、応援してしまうのだ。


今の世の中、大義や目的を深く考えて、その上じゃないと動かない場合が多い気がする。

でも、目の前のことを見て、感じて、そこで自分が直感的に考えたことを行動に移すという
潔さがなければ、新しい時代を切り拓くことなんてできないんじゃないだろうか。

自分も、なんというか、そんな気持ちいい生き方をしていきたい。


NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715

日本の大組織は若者の情熱と危機感を活かせ

「いまの日本の若者は内向きで元気がない」

そんな声をよく耳にするが、それは違う。現在29歳の私の周りには、日本社会の
行く末に危機感を覚え、未知なる世界に飛び込んで変革を起こしたいと考えている、
前向きで情熱に溢れる同世代の人間たちが数多くいる。

しかし、こうした若者の情熱を活用するどころか、それにすら気付かずに
彼らを既成概念の「枠」に押し込め、情熱を奪ってしまっているのが日本の大組織だ。
結果、組織に入って時間が経つにつれて、若者の目からは徐々に輝きが失われてしまう。

私の経営するNPO法人クロスフィールズでは、「留職」という、
企業の人材を新興国のNPOへと派遣し、そこで数カ月間に渡って本業のスキルを
活かして現地の社会課題解決に挑むプログラムを提供している。

先進国に留まって学ぶという従来型の「留学」に対し、途上国に留まって
実際に職務にあたるのが「留職」だ。今月2月から、電機メーカーのエンジニアの方を、
太陽光を活用した調理器具の開発に取り組むNGOへと派遣する。
(こちらのプロジェクトについて、詳しくはこちら

組織や国境の枠、さらには価値観や既成概念の枠といった、
あらゆる「枠」を超えた挑戦の機会を提供することで、組織で働く人たちが
「社会の未来と組織の未来を切り拓くリーダーになる」
ことのお手伝いをするのが、クロスフィールズのミッションだ。

こうしたNPOと協業した人材育成の取り組みは、日本では
まだ馴染みがないが、欧米企業の間では5年ほど前から活用が始まっている。
たとえばIBMは2008年からこの取り組みを導入しており、
昨年は年間500人の社員を途上国のNPOや行政機関に派遣した。

では、なぜこうした取り組みが欧米で注目を集めているのか。
私は昨年夏に米国を訪問し、様々な企業の担当者に聞いて回った。すると、
どの企業からも「グローバル人材が欲しいからだ」という意外な答えが返ってきた。

しかし、当然ではあるが、ここで言うグローバル人材とは、
TOEICのスコアで一定の基準点を持つ人材を指しているわけではない。

これから多くの企業にとって市場となる新興国では、これまでのような先進国の
やり方を押し付けていく方法は通用せず、その国の文化や価値観を肌感覚で理解し、
現地の人々を巻き込みながら新たな価値を創っていくことが必要となる。

それには、「新興国の社会に深く根を下ろしているNPOに入り込み、現地の人々と
同じ目線で働く経験を社員に積ませるのが一番の近道」というのが、彼らの考え方だ。

私は、日本企業にこそ、こうした人材を育成していくことが求められていると思っている。

日本企業が既存ビジネスの延長線上だけではやっていけないということは、
世界中の誰の目にも明らかだ。瑞瑞しい感性を持った若手が新興国の未知なる
世界へと入り込み、時代を切り拓く変革の種を見つけることなくして、日本の未来はない。

日本が目指すべき未来の姿は、語学学校で英語を勉強するだけでは見えてこないし、
新興国の高級住宅地と市街地にある現地駐在所との往復からも見えてこない。

冒頭にも書いたように、いま日本の若者には強い危機感と情熱がある。

日本の組織に求められているのは、こうした若者の想い・情熱を大事に
育てて花開かせることで、日本の社会の未来と組織の未来を切り拓いていくことだ。


※ この記事は、日本生産性本部発行の生産性新聞の一面に寄稿した文章の原文です

NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715