「リーン・スタートアップ」とNPOの経営
- Day:2012.06.17
- Cat:経営ノート
全体的にネット系ベンチャー企業を主な対象として書かれた本のように感じたけど、
NPOの経営者という全く分野の異なる自分が読んでも、とても学ぶことの多い本だった。
頭の整理のためにも、特に気になったこと2点だけメモしておく。
(※ 僕なりの解釈が多分に入っているので、詳しくは原著を読んで下さい)

① スタートアップの経営者は"Pivot"する勇気を持つことが大事
特にスタートアップの経営者は、「構築-計測-学習(Build-Measure-Learn)」の
サイクルをいかにスピーディーに継続的に回すことができるかが生命線だと著者は唱える。
新しいサービスを提供する際には、完璧な製品を提供してから顧客のフィードバックを
受けるのではなく、早い段階で顧客の声を聞いて仮説を検証し、「戦略の方向転換(Pivot)」を
するかどうかの判断をスピーディーに行なっていくのが肝である、という考え方だ。
もちろん、自分が「これだ!」と信じてきたものが間違っていると突きつけられるのはとても辛いし、
それを受けて戦略の見直しをするという行為には、信じられないほどの勇気が必要だ。
でも、だからこそ、早い段階で顧客の声を聞いて"Pivot"できることに、大きな価値がある。
顧客が全く求めていない機能を完璧に作り込むなどといった、間違った方向に突き進んで
膨大な時間とお金を無駄にすることを避けることが、著者が主張する経営手法なのだ。
これはNPOの経営にも応用することのできる考え方ではないかと思う。
どのNPOも、団体が掲げるミッションやビジョンに基づいて活動を始めているが、
活動を続けるうちに、いつの間にか、予定通りに活動自体が進んでいるかどうかばかりに
気を取られてるようになって、ミッションやビジョンに近づいているかを見失いがちだ。
たとえばクロスフィールズを例にとってみても、「留職」プログラムは
団体のミッションである"社会の未来と組織の未来を切り拓くリーダーを創ること"のために
運営しているが、日々管理する指標は、「何人が参加したか」「満足度はどうだったか」
という部分だったり、「資金調達は大丈夫か」といった見えやすい観点になりがちだ。
そうではなく、「自分たちは本当に社会を変えているのか」という問いに立ち返って、
自分たちの活動を"Pivot"すべきか考えることを、初期段階では特にやるべきだと思う。
② 自分たちを最初に信じてくれた顧客とともに歩もう
では、どのように「構築-計測-学習(Build-Measure-Learn)」のサイクルを早めるのか。
著者の答えは、自分たちの製品を信じてくれるアーリーアダプターに対して
「MVP(Minimum Viable Product=実用最小限の製品)」を提供することだ。
アーリーアダプターとは、完成度が低くても必要な機能を評価して製品を買ってくれて、
製品にコメントをして一緒になって製品の完成度を高めてくれる人たちだと著者は考える。
彼らに対し、必要最小限な機能だけを持つMVPをスピーディーに提供していくことで、
貴重なフィードバックをもらうことが可能となる。そして、その顧客の声を通して、
今後注力して開発すべき領域と、顧客が必要としない領域が何かを知ることができるのだ。
この点についても、NPOには大いに学ぶべきことがあるのではないかと思う。
幸運なことに、多くのNPOには、団体のミッションに共感して応援してくれる仲間たちがいる。
NPOの経営者は、そうした仲間たちを単に活動を応援をしてくれる支援者として見るのではなく、
アーリーアダプターとしてサービスや事業にフィードバックをくれるパートナーだと捉えてはどうだろう。
クロスフィールズでも、パートナー企業には「一緒に『留職』プログラムを創ってください!」と
繰り返し伝えているが、これはとても上手くいっていて、そうしたパートナー企業の
フィードバックがもととなって、様々な新たな素晴らしい事業やプロジェクトが生まれている。
逆に言うと、初期段階ではフィードバックをくれない顧客とは付き合うべきではないとも、僕は思う。
極端に聞こえるかもしれないけれど、スタートアップ期のリソースはそれくら貴重なのだ。
…それにしても、実は起業してから初めて、いわゆる「ビジネス書」を読んだのだけれど、
実践者として情報に触れると「なるほど!」と思うポイントがとても多いことに改めて驚かされた。
この本も、起業する前に読んだら「当たり前のことしか書いてないな…」と思ったかもしれない。
それくらい、今の僕には「当たり前のこと」すら見えなくなっているということだと思う。
うーん、もう少しインプットの機会を増やさねば。。。
NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715)