社会をよくしてお金も稼げるしくみのつくりかた
- Day:2012.10.28
- Cat:NPO関連エッセー
社会をよくしてお金も稼げるしくみのつくりかた
~マッキンゼーでは気づけなかった世界を動かすビジネスモデル「WINの累乗」~

著者は、TABLE FOR TWO International代表理事の小暮真久さん。

僕にとっては、前職マッキンゼーの先輩でもあり、NPO経営者としての
大先輩でもあり、そして、クロスフィールズのアドバイザーとしても
いつもお世話になっている、心から尊敬する兄貴分のような存在だ。
そんな彼が今回書いた本書は、だいぶおこがましい表現だけれど、
僕が世の中に発信したいと常々思っていることがそのまま
書かれていると感じてしまうくらい、共感を覚える内容だった。
彼の前著である『「20円」で世界をつなぐ仕事』は、多くの人に
いわゆる”社会起業家”という生き方を訴えていたように思うけれど、
(実際、僕の起業にもこの本は大きな影響を与えてくれた)
僕からすると、今回の本は会社員向けに書かれていると思うので、
ぜひとも一人でも多くのビジネスパーソンに読んで欲しい。
僕のつたない説明では力不足かもしれないけれど、
本書で提唱されている「5C」というフレームワークを簡単に紹介したい。
ビジネスの世界でよく使われるのは、「3C」というフレームワークだ。
これはCustomer(顧客)、Competitor(競合)、Company(自社)
という3つのCを表していて、民間企業がビジネス環境を
分析をする上でよく用いられる経営の教科書的な考え方だ。
今回小暮さんは、大胆にもこの3Cというフレームワークに
変わる「5C」という新たなフレームワークを提唱しているのだ。
最初の2つのCがCompany(自社)、Customer(顧客)なのは変わらない。
ところが次はCompetitor(競合)でなくCooperator(提携・協業者)で、
更にContributor(出資者)、Community(一般社会)が加えられている。
そして小暮さんは、この5つの領域それぞれにWinをつくることが、
これからのNPOにも民間企業にも共通する大事な戦略だと主張する。

本書ではこの「5C」の概念が小暮さんの経営するTABLE FOR TWOの
事例になぞって見事に解説されているが、せっかくなのでここでは、
僕の経営するクロスフィールズ(以下、CF)に当てはめて考えてみたい。
◆Company(自社)◆
CFの事務局で働く従業員や、活動を応援してくれるボランティアや
サポーターの方々を指す。「自社」というより、「仲間」という表現の方が
しっくり来るかもしれない。この仲間たちがCFの活動にかかわることで
ハッピーになっているかどうかが、Companyという領域でのWinだ。
◆Customer(顧客)◆
「留職」プログラムという事業で考えると、CFにとっての顧客とは、
プログラム参加者、参加者を送り出す企業、そして受け入れ先NPOという
3者が存在している。この3者それぞれがWinを感じられるように
プログラムを運営することが、3者を繋ぐCFが果たす最も重要な役割だ。
◆Cooperator(提携・協業者)◆
CFのような小さな組織が全ての事業プロセスを自社で行うのはもちろん
無理なわけで、様々な団体・企業と連携していくことは必要不可欠だ。
加えて、「留職」という新たな価値観を世に打ち出すためには、
自分たちだけで打ち出すのではなく、想いを同じくする多くの人たちと
一緒になってムーブメントをつくる方が圧倒的に効率もいいと思う。
類似の事業を行なう組織を競合と捉えて自社だけがWinを得ようとせず、
提携・協業者と捉えてWinを分かち合うことが大事なんだと思う。
◆Contributor(出資者)◆
企業では株主が出資者なわけだけど、NPOでは寄付者が出資者にあたる。
CFでも、個人や企業の方々から定期的に寄付を頂いて活動を支えて
頂く賛助会員の制度はとても重要だし、ETIC.さんやSVP東京さんには
事業の立ち上げ期に助成金を頂くことで、事業を加速させることができた。
NPOは企業と違って出資者に金銭的なお返しをすることはできないので、
ミッション達成に向けて事業が進んでいることを丁寧に報告することで、
出資者に社会的リターンというWinを提供することが大事だと考えている。
◆Community(一般社会)◆
CFの活動は関係者の中で閉ざされたものではなく、一般社会に広く
開かれた活動であることを心がけている。なぜなら、社会の認識や
価値観を変えてこそ、僕たちの活動には意義があると考えているからだ。
「留職」の取り組みを通じて、日本社会のなかに「社会課題の現場で
情熱を持って働く経験は人と組織を変える」という認識を広めたいし、
「『働くこと』と『社会を良くすること』は深く繋がっている」という
価値観が組織で働く人たちの間に広まることで、そうした価値観のもとで
日本社会に生きる人たちがハッピーになることが、究極の目的だ。
そして、小暮さんいわく、この5つの領域は有機的な繋がりを持っていて、
ある場所でWinを生み出せば、それがまた別の領域でのWinにつながる。
これが、小暮さんが提唱する「WINの累乗」という考え方だ。
というわけで、上手く説明できたかは分からないけれど、
この記事に興味を持った人は、ぜひこの本を読んでもらいたいと思う。
本当に、オススメです!
NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715)