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「ボランティア活動」の価値の再認識 〜バンコクで考えたこと〜

1泊3日という弾丸日程で参加した、11月のバンコクでの国際会議。その時のメモを途中まで書いておいて、公開しないまま2019年が過ぎそうになっているので、さすがに翌年に持ち越すことは避けるべく、今更ながら記事をアップしてみようと思う。

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僕が参加したのは、IAVE Asia Pacific Volunteering Conferenceなるもの。これまでも国際会議には何度も参加してきたものの、「ボランティア」というある意味で伝統的かつSpecificなテーマでの会議に400人以上の人たちが世界中から集まっている光景は、なんというか壮観だった。

今年のテーマは「Unlocking the Power of Volunteering(ボランティアの力を解放しよう)」。クロスフィールズの活動がこのテーマを体現していると主催者たちに映ったようで、今回は光栄にも基調講演のスピーカーを務めさせてもらった。8年間地道に活動を続ける中で、クロスフィールズの活動に対する海外からの関心や期待がこうして高まっていることには、本当に喜びを感じる。

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↑まさに身に余る役割をもらった感じ。スピーカー一覧のサイトを最初に見た時は背筋が凍った


さて、せっかくなので、今回の会議を通じて考えたことを、3点ほど書き残しておきたい。

①ボランティアこそ共感力を育む最強のツールでは?

プロボノという言葉が定着してからというもの、災害時や大規模スポーツイベントを除けば、最近はあまり脚光を浴びることがなくなった印象のあるボランティア活動。でも、今回の会議で世界中の人たちがその意義を口々に語るのを聞いてみて、グルっと一周回って、ボランティアって最高に素敵だなと感じたのだった。

クロスフィールズが運営する「留職」にしろ、プロボノ活動にしろ、最近注目を集めているNPO関連の活動には、企業が人材育成として活用できたり、個人がキャリアアップする際の一助になるなど、何かしらの明確な目的が置かれているものが多い。もちろん悪いことではないが、なんというか、この10年くらいは、自分起点のモチベーションというか、何かしらの見返りがある実利的な活動が注目を集めてきたように感じる。

それと比較すると、ボランティア活動は、純然たる利他の活動という側面が強いように思う。利己的な意図や損得勘定からは完全に自由になり、誰か他の人のために尽くすということに最も真っ直ぐになれるのが、ボランティア活動の大きな特徴だと言えるかもしれない。

ここのところ、「共感する力(Empathy)が大切」だと色々なところで聞かれるようになった。論理的な思考では人間がAIやロボットに勝てなくなるなか、人間がこれから見直すべきなのが、「共感」の力に着目すべきだと多くの人たちが考え始めているからだ。

そして、完全に私見ではあるのだが、ボランティア活動こそが共感力を高めるための手段として、もしかしたら最強なのではと、僕は思うのだ。自分が所属する組織の利害関係から自由な立場で、誰かのためを思いやって活動し、そしてその活動の反応も感じることができる。これは「共感」の基本である「他者の立場に立って物事を感じたり考える」という活動そのものではないだろうか。(と言って、共感力を鍛えるためにボランティアをしようとか考え始めると、また矛盾が起きていくのだけれど…)

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↑とてつもない数の聴衆が世界中から集まっていた


②シニアによるボランティア活動は、人生100年時代の基礎となる?

今回聞いた講演のなかでも最も印象に残ったものの1つが、香港のボランティア支援団体によるスピーチだ。

世界で最も長寿なこの国では、シニア世代によるボランティア活動が非常に盛んなのだという。彼らは「Young Old」という言葉を使っていたが、高齢社会においては「気持ちの若い年長者」によるボランティア活動こそが、社会を大きく変えていくのだという力強いメッセージだった。

香港と同じく超高齢社会を迎える日本においても、シニア世代による社会参画をどう考えるのかは、国家レベルで考えるべきイシューだと思う。ボランティア活動は、シニア世代を活性化して健康寿命を伸ばすという観点からも、労働人口が減る中での社会サービスの担い手の確保という意味からも、大変意義深い活動ではなかろうか。

なお、シニア世代をボランディアに巻き込む上で大切なのは、「①現役を引退してからではなく、引退前からボランディアに誘う」「②孫と一緒に参加できる活動から始めてもらう」「③巻き込み上手な人から誘って、どんどん友達を呼び込んでもらう」といった点だそうだ。どれも長年の経験に裏打ちされた納得感のあるレッスンであり、唸る点が多かった。

最後に、この香港の団体は、「大変な政治状況が続いているが、きっとボランティア活動こそがいまの苦しい香港の状況を打開する力になれると私は信じている」というメッセージでスピーチを締めくくっていたが、この言葉は僕含む多くの聴衆の胸を打つものがあった。

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↑演出や装飾がとても凝っている会場の様子


③ボランティア活動を通じてSocial Capitalが積み上がる?

最後に、最近個人的によく考えるようになっている「Social Capital(社会関係資本)」という概念について。簡単に言えば、”社会や地域における人々の信頼関係や結びつき”のことで、最近ではOECDなども国や社会の豊かさを表す指標として、注目していたりする。

今回の会議への参加を通じて思ったのは、ボランティア活動ほどSocial Capitalを豊かにする活動はないのではということだ。そもそも、ほとんどのボランティア活動というのは、緩やかな人の結びつきやご縁によって成り立っている。人間関係がないところにボランティア活動は発生しないし、ボランティア活動によってこそ、コミュニティのなかに信頼関係が育まれていく。

そして、ボランティア活動に従事する人たちは、豊かなSocial Capitalを持っていて、また、Social Capitalの活かし方がとても上手い。この会議に僕が呼ばれたプロセスも、なんというか、すべてが信頼関係から生まれた奇跡的なご縁だ。このつながりのなかでは、誰もが損得の関係性とは無縁なのだ。だから面白いし、人と人の関係が太く強くなるのだ。今回のカンファレンスで仲良くなった人とは、僕はきっとこれからも関係性が続いていくと僕は確信している。

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↑今回僕を読んでくれた主催者のAnneとの記念写真


というわけで、あらゆる意味で、これからまたボランティア活動の価値が見直されるのでは、という僕のザックリとした抽象的な予兆について、書きなぐってみた。 折しも来年はオリンピック・パラリンピックでボランティア活動を経験する人の数が日本国内でも一気に膨れ上がるはず。ぜひ、2020年は日本全体でボランティアがもう一度盛り上がっていく年になって欲しいと思う。

なお、この会議を経てボランティアについて改めて考えてみようと早瀬昇さんの『「参加の力」が創る共生社会:市民の共感・主体性をどう醸成するか』という本も読んでみたけれど、最強に面白かったし、とても示唆に富んでいた。こういう分野に興味があるマニアックな人には、ぜひ読んでもらいたい良書です。オススメ!!

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NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715
※ 当記事はNPO法人クロスフィールズ代表小沼の個人的著述です。
※ 2016年9月2日(金)に初の著書が発売になりました。
『働く意義の見つけ方―仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)

中村哲さんに頂いた言葉

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今日はアフガンで命を落としたペシャワール会の中村哲さんのことをずっと考えている。彼の訃報は悲しくてならないけれど、タリバンが「犯行への関与を否定する声明」を出すという普通なかなか起きない事態が、現地社会が中村さんやペシャワール会のことをどれだけ信頼していたのかを物語っている。同じ日本人として、本当に誇らしい。

たまたまではあるけれど、僕は昨年9月に中村哲さんの講演を聴き、その後、個別にもお話する機会を頂いたことがある。追悼の意も込めて、その時に印象に残った中村さんの言葉を、ここに書いてみたいと思う。
 
「僕はとにかく逃げ足が遅い。だから逃げ遅れて、いまもこうしてアフガンで活動をしているのだと思う」
 
「医師として1人1人を救うことは大いなる喜びだった。でも、灌漑事業で数千人を一気に助けられるのは存外の喜び。これ以上の幸せはない」
 
「実はアフガンでの活動に集中していて、自分の実の子どもが亡くなる瞬間に立ち会えなかった経験がある。でもその時も、自分のやっている事業によってアフガンの子どもたちの命が数千人救えているという実感があったので、それでいいと思えた」

「これからの時代、どんな人を育てていくべきか。誰か泣いている人がいたら、『どうして泣いているの?』と駆け寄ることができる気立ての良い子どもが増えてほしい」
 
「誰かに裏切られたと思っても、すべてを憎まないことが大切。その部分だけではなく、良い面もあると信じて、クヨクヨしないということが何よりも大切」
 
「ちょっと悪いことをした人がいても、それを罰しては駄目。それを見逃して、信じる。罰する以外の解決方法があると考え抜いて、諦めないことが大切。決めつけない『素直な心』を持とう」
 
「無理やりやってもダメ。悲壮感は十分な原動力にはならない。好きなことや、やめられないようなことを思い切ってやってほしい」
  
とにもかくにも、自分よりもアフガンの人々を愛することのできる人だった。こんな人はなかなか存在しないと、改めて思う。彼の遺志を少しでも良い形で引き継ぎたいと心底思う。

ご冥福をお祈りします。

(追記)
いま多くの人が「彼を殺した人のことを許せない」と言っているけど、なんとなく、中村さんは「まぁ、どうかアフガンの人たちを責めないで、ゆっくり見守ってあげてください」と天国でおっしゃっているような気がする。

NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715
※ 当記事はNPO法人クロスフィールズ代表小沼の個人的著述です。
※ 2016年9月2日(金)に初の著書が発売になりました。
『働く意義の見つけ方―仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)