無用の用 ~あるシェアオフィスの話~
- Day:2012.03.04
- Cat:日々の考えごと
これは老子や荘子が用いた言葉らしく、
「一見役に立たないと思われるものが実は大きな役割を果たしている」
というのが言葉の意味らしい。
荘子はこの概念を、以下のような分かりやすい例えで説明している。
無用ということを知って、はじめて有用について語ることができる。
大地は広大だが、人間が使っているのは足で踏んでいる部分だけである。
だからといって、足が踏んでいる土地だけを残して周囲を黄泉まで
掘り下げたとしたら、人はそれでもその土地を有用だと言うだろうか
なるほどどうして、これは分かりやすい。
さて、最近この「無用の用」という言葉がまさにピッタリだなぁと思っているのが、
自分たちがいまお世話になっているSPROUT(スプラウト)というシェアオフィスだ。

起業してすぐの頃にはオフィスを転々としていた自分たちだけれど、
今のオフィスに移ってからは、この場所に惚れ込んで、完全に居着いている。
オフィスの管理をしているのは、Sow Experienceさん。
別にシェアオフィス事業を本業にしている会社ではなく、体験型ギフトという
面白い商材を扱っている、創業8年目を迎える元気のいいベンチャー企業だ。
なんでも、彼らが今のオフィススペースを気に入って借りてみたところ、
「明らかに自分たちには広すぎた」とかいうゆるーい理由で、
なかば勢いで、このシェアオフィス事業を始めてしまったということ。
このあたりも何だか「無用の用」な匂いが漂ってくる。
では、なぜ自分たちがこのシェアオフィスを気に入っているのか。
もちろん、一見して明らかにメリットだと感じられる部分も数多くある。
・同じようなステージの起業家の同志たちからパワーがもらえる
・先輩起業家からアドバイスをもらえたり、色々な人を紹介してもらえる
・家賃が安い上に、コピー機その他も共有できて、とっても経済的
でも、ここSPROUTの良さは、もっともっとアバウトで、
言葉ではおよそ表現できないような部分にある気がしてならない。
きっと入った瞬間に誰もが感じることなんだけど、なんとなく、
空間全体がクリエイティブで楽しくて、ワクワクする感じがするのだ。
太陽の光がふんだんに入ってきて、なんかいい感じの音楽が流れてて、
そこで働いている人も、みんなベンチャーで大変なはずなのに、
とにかくワイワイ楽しそうに働いている。そう、なんか、いい感じなのだ。
で、一体この感じはどこから来るんだろうと思っていたところに、
最近、このオフィスを象徴するようなとんでもない物体が搬入された。
これ、何だか分かるだろうか?

ありえない話だけど、実はこれ、普通にデスクなのだ。

4階層になっていて、当たり前のことながら一番高い机に登るのは大変で、
そしてこれもまた当然ながら、降りるのはもっともっと大変だ。
実は自分も、はじめは「一体なんの意味があるんだよ...」と思っていた。
でも、横で見ていて、この物体がどんな役割を果たすかが次第に分かってきた。
およそ実用的ではないこの変な物体がオフィスに置かれたことで、
このオフィススペースには、何らかの"ネジレ"みたいなものが起きている。
最近このオフィスを訪れる人はみな、「なんですかこの物体?」と、誰かに
聞く必要もないような質問をしてしまう。すると、その質問を聞かれた人は、
どんなに忙しくても、ついニヤニヤしながら「実は机なんです」と答えてしまう。
ちょっと時間があれば「ちょっと最上階に座ってみます?」なんて会話に発展して、
気がつけばその場にいる人たちで記念撮影なんかして、みんな仲良しになっている。
また、夜中に作業が進まずに一人で「うーむ…」と悩んでいる時なんかも、
「そうだ」と思い立って恥を捨てて一人4階のデスクに登って仕事をしてみると、
意外とパッといいアイデアが浮かんできて、作業が一気に進んだりしてしまう。
これぞまさに、「無用の用」じゃないでしょうか?
論理的・経済的に考えたらこのデスクを導入することの意味はないかもしれないし、
この価値を無理やり数値で表そうとしても、それは全く意味のないことだと思う。
でも、この途方もない不思議なワクワク感が、目の見えない価値として
人を惹きつけているから、僕たち利用者は幸せに楽しく働けてしまうのだ。
長々と書きましたが、何が言いたかったかというと、
「SPROUTは絶対オススメ」ってことなんです。
なんでもあと残り5組くらいらしいですよ。お早めに。
(注)Sow Experienceさんにサクラを頼まれてこの記事を書いたわけじゃありません。
NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715)