「マヌーバー」という言葉
- Day:2013.08.12
- Cat:NPO関連エッセー
「マヌーバー(Maneuver)」というキーワードがある。
尊敬するジャマイカ人の起業家からもらった、大事な言葉だ。
色々な意味を持つ英単語だが、ここで意図している意味としては、
「巧みに動かす、操縦する」といったあたりが近いと思う。

今から4年ほど前、僕は会社の研修のために米国サンフランシスコで
半年間くらい暮らしていて、その時にルームシェアしていたのが、
そのジャマイカ人起業家だった。彼は僕よりも一回りくらい年上で、
既に2社を起業して売却に成功しているという、すごい経験を持っていた。
当然大金持ちなわけで、週末には何度か彼の持っているヨットで
海に連れて行ってくれた。(なお、そんな彼が僕なんかとルームシェア
してくれたのは、「謙虚な自分を取り戻したい」という理由らしい...笑)
ある時、気持ちよくヨットを猛スピードで海に走らせながら彼が言った。
「おいダイチ。どうして俺たちのヨットは他の奴らより速いか分かるか?」
ふと見ると、僕たちが乗っていたヨットは、たしかに周囲のどのヨットよりも
勢い良く海を疾走していた。ヨットのことなんて何も知らない僕は
当然彼の質問には答えられずに考え込んでいたが、彼はかまわず続ける。
「それに、他のヤツらは全力でエンジンかけているが、俺はエンジン切ってるんだぜ」
たしかに、言われてみれば僕たちのヨットからは何のエンジン音もしておらず、
風の音や水しぶきのあがる音が聞こえている。何とも気持ちがいい。
彼は、潮の流れと風を巧みに読みきって、自然の力だけでヨットを走らせていた。
陽気でおしゃべりなジャマイカ人は更に続けた。
「いいか、大事なのは、この世の中がどんなルールで動いているかを理解することだ。
そのルールさえ分かれば、あとはそのルールに逆らわずに、それを上手く利用して、
そこを気持ちよく進めばいいんだ。これがManeuver(マヌーバー)ってやつさ」

…と、なんともカッコ良すぎる感じで教えてもらったこともあってか、
この「マヌーバー」という言葉は、以来、僕にはとても大事な言葉になった。
世の中の流れを読んで、これから何が起こるかを予測して、
未来の世界では一体どんなものが必要とされるようになるかを考える。
クロスフィールズを起業するかどうかで悩んでいた時にも、
「世の中の流れを考えたら、きっといま帆を上げるのが1番だよ」という
アドバイスを何人かの尊敬する人にもらえたことは、僕にとても響いた。
事業を立ち上げるにあたって、どことなくではあるのだけれど、
「マヌーバー」という言葉を意識できていて、すごく良かったなぁと思う。
そして、いま。
早いもので、クロスフィールズも創業して3年目を迎えた。
これから事業を更に成長させていくことができるかは、
再び「マヌーバー」することができるかが鍵だと、強く感じている。
3年前の自分たちは、何かしらの世の中の流れを捉えることができていた。
でも、世の中は絶えず動いているわけで、一度読んだ潮と風の流れを
頼りに船を走らせていては、絶対にどこかで無理が生じてくる。
これからも継続して事業を前に進めていくためには、
常に、世の中の大局的な流れを巧みに捉えることが必要だ。
でも、少なくとも起業してからの僕はといえば、目の前の事業に対して、
とにかく盲目的にガムシャラに取り組んできてしまっている。
もちろん、それはそれでよかったとは思うのだけど、同時に、
フッと目線を上げて、これからの社会がどうなっていくのかに神経を
研ぎ澄ませるような努力と姿勢とが、いま求められていると感じる。
理由は分からないけれど、急にそんなことが気になった熱帯夜。
あぁ、サンフランシスコにでも行って、優雅にヨットに揺られたいなぁ…
NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715)
※ 当記事はNPO法人クロスフィールズ代表小沼の個人的著述です。

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