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INSEAD Social Entrepreneurship Programme(学び編)

さて、先週6日間にわたって参加してきた、シンガポールでの
INSEAD Social Entrepreneurship Programmeのコース。
「概要編」に続き、「学び編」をアップします。(それなりに長文です)

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前提として、本当にたくさんのことを勉強したので、その全てを
僕が吸収できたとは思っていません。また、自分自身がが落とし
込むにも相当な時間がかかるかと思います。ただ、それでも記憶が
フレッシュなうちに伝えておけることもあると思い、荒削りでは
ありますが、まずは吐き出すことをしておきたいと思います。

ちなみに、僕はこの手の社会起業家やリーダー向けの研修には
何度か参加させて頂く機会があったのですが、良くも悪くも、
この手の研修はリーダーシップ開発的な内省のプロセスとして
構成されてるものが多いと思います。その中にあって、今回の
コースは社会インパクトを起こすための理論と実践知に一貫して
フォーカスしていた印象。これまで出たどんな研修よりも、
新しく獲得した知識や情報の量は多かったような気がします。

そんなわけで、どうやってこの記事を書くかかなり迷いましたが、
体系的に書くのは僕の能力では到底不可能なわけで、開き直って、
僕の中で刺さったことに絞って、その中でも、汎用性の高そうな
学び・教訓を「7つのレッスン」としてメモに残そうと思います。

社会インパクトを出そうと必死に頑張っている人たちにとって、
少しでも何かの参考になれば幸いです。。。

※ 多分に僕の解釈・理解を加えていることをお許し下さい。
※ なお、一部実際の教材も使いながら内容を共有していますが、
  このあたり、日本のSocial Entrepreneurshipを育てるためと
  いうことで、INSEADの教授陣からも許可をもらっています。

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↑修了セレモニーにて、メイン教授陣のJasjit(左)・Hans(右)の2人と。


LESSON 1:
本気でSocial Innovationを起こして世界を変えたいなら、
ビジネスモデルではなく"インパクトモデル"をつくれ


・「ビジネスモデルをつくって経済的に持続的な事業を経営するとともに、
 社会インパクトを出して世界を変える」のが社会起業家の正しい姿である

・社会起業家がSocial Innovationを起こすための正しいステップは、
 「①立ち向かう問題の特定」→「②持続的なビジネスモデルの策定・
  インパクトモデルの策定」→「③モデルが有効かの検証・改善」→
 「④インパクトモデルの更なる効率化・深化」→「⑤モデルの拡散」
 
スライド1
・陥りがちなのは、ビジネスモデルをいくら大きくしたとしても、それが
 立ち向かおうとしている課題に対する正しいアプローチではなかったら
 全く社会インパクトは出ないという罠。重要なのは、解くべき問題を
 正しく定義し、問題のRoot Causeを断ち切るために最適なSolutionを
 的確に届けていくこと。この、社会課題を解決して社会インパクトを
 生むためのモデルを「インパクトモデル」と呼ぶ(この考え方は
 「Theory of Change」とも呼ばれ、日本ではその方がメジャーか?)

・このインパクトモデルをシンプルかつ的確に構築できるかどうかで、
 その組織・事業の生む社会インパクトは大きく変わってくる


LESSON 2:
社会起業家にとっても、やはり大事なのは"競合"に勝つことだ


・ソーシャルセクターでは、ついつい「私たちには競合はいません。
 色々な人たとパートナーとして手を取り合って世界を変えていきます」
 となりがちだが、そんなことはない。競合は必ずいると思った方がいい。

・寄付型の組織であれば、寄付市場を奪い合う他のNPOは紛れもなく競合
 だと呼べる。他の団体よりもどれだけ圧倒的に高い価値を自分たちが
 届けられているかどうかを徹底的に追求し続けるべき。それでこそ、
 真の意味でソーシャルセクター全体として寄付市場の拡大が可能になる

・社会起業家の世界における競合とは、既存の「ダメなソリューション」。
 たとえば、ソーラーランタンを製造・販売する社会起業家であれば、
 「灯油ランプ」こそが競合のソリューションとなる。そして、本当に
 インパクトを出すためには、競合のソリューションよりも圧倒的に高い
 価値を顧客に提供できているかに、徹底的にこだわっていくべき


LESSON 3:
ソーシャルビジネスと普通の企業との違いは、
経営者の"意図(Intention)"と意思決定のあり方にある


・(日本でも度々議論になる)ソーシャルビジネスと普通の企業との
 違いという問いに対し、グローバルでも統一された見解は存在しない

・ただし、1つの鍵となるのは経営者がどんな意図(Intention)を
 もって企業を経営しているかということ。社会を変えることを第一に
 事業をしているのか、利益を出すために社会と向き合っているのかが
 両者の違いである(ただし、これもはっきり白黒がつく議論ではない)

スライド3

・たとえば、世の中の組織体は上の5つの箱のように分類できる。一番右が
 一般的な企業だが、CSVの実現を目指したユニリーバの取り組みは右から
 2番目の「Sustainable Business」と呼んで、パタゴニアのような
 経営者が環境を第一に置く事業は「Socially-Driven Business」と呼ぶ
  (コースでは、パタゴニアのケースは4時間かけてやりました)

・Socially-Drivenな事業かどうかをよりハッキリ定義をしようとすると、
  「全ての意思決定において、社会インパクトのKPIが優先順位の1位に
 置かれているか」という問いにYESであれば、左3つの中に入る


LESSON 4:
社会を変えるSolutionは、3つの方法で飛躍(Scale)できる


・通常の企業では、自社の規模の拡大こそが唯一の飛躍の方法だが、
 Social InnovationのSolutionの飛躍については、「①Scale-Up」
 「②Scale-Out」「③Scale-Deep」という3つのあり方が考えられる

・「①Scale-Up」とは、通常の企業と同じように自社の規模を広げて
 いくことを指す。たとえばグラミン銀行はバングラデシュ内に
 2,000位上の支店を出すということでインパクトを拡大させた

・それに対して「②Scale-Out」とは、パートナー団体などと協働
 しながらインパクトを高めていくという方法。たとえばDialogue in
 the Darkはフランチャイズ型で、TEDxはライセンス型で、また、
 Teach For AmericaやImpact HubはNetwork型を取ることで、他国
 においてもインパクトを出すことに成功した。Scale-Outをする
 際には中央集権型にするか自治型にするかの選択があって、それぞれ
 メリット・デメリットがあるので、各組織が慎重に考えていくべき

・最後に「③Scale Deep」とは、同じ地域の中で、より効果の高い
 Solutionを同じ顧客に届けたり、既存モデルを使って新しい顧客に
 価値を届けることで社会インパクトを高める方法。たとえば、
 これまで大学生にやっていた活動を高校生にまで広げたり、
 Dialogue in the DarkがDialogue in Silenceを開発することなど

・大事なのは、この3つの飛躍を同時に目指さないこと。そうすると
 経営が複雑化して失敗に陥ることが多い(コースでは、これによる
 失敗事例のケースも沢山読みました)

・また、実はScale Deepしすぎてモデルが複雑化するとScale-Out
 しにくくなることも多いので注意が必要。とにかくシンプルで
 強固なソリューションであることが、飛躍には不可欠である


LESSON 5:
普通の企業活動は"死ねる"が、社会起業家は"死ねない"


・株式会社の活動は、市場から必要となくなって事業の存続ができ
 なくなれば、その瞬間にハッキリと姿を消すことができる

・一方で、ソーシャルビジネスには大義があるため、いつ消滅する
 かの境が曖昧となってどん底の状態のままになるケースがある

・特に助成金や寄付に頼るNPOは、この点には大きな注意が必要。
 現場では全くもって機能していないのに、それが寄付者などの
 資金提供者に(意図的かそうでないかは別として)伝わらず、
 意味のない活動を、さも意味のあるように続けなければいけない
 場合がある。こんなことをしていても、世界は悪くなる一方だ

・これを防ぐためにも、活動の成果をKPIとして明確に定義して、
 本当に成果・インパクトが出ているかを測ることが極めて重要


LESSON 6:
社会起業家の意思決定には"AAAフレームワーク"を使え


・INSEADのMBAのクラスでも教えられる意思決定の際の問いかけに、
 AAA(トリプル・エー)というフレームワークがある。これに
 下の赤字部分を足すと、社会起業家向けとしても有用になる

スライド2

・通常の経営者は黒字の6つを意識するだけでいいが、社会起業家
 は6つ全てを考慮に入れて意思決定を行っていく必要がある

・1つ目のAは「Opportunity "A"ttractiveness(機会の魅力度合)」。
 黒字では「経済的に今後魅力的な市場か?」であり、赤字では
 「この社会課題を解く優先順位は高いか?」という問いとなる

・2つ目のAは「Competitive "A"dvantage(競合優位性)」。黒字は
 「他社に勝てるのか?」であり、赤字では「このSolutionは社会
 にとって本当に最良のものなのか?」という問いとなる

・3つ目のAは「"A"ggregate Implications(結果の総合的な影響)」
 で、黒字では「他の事業にどんな影響があるか?」であり、赤字
 は「世の中全体に対してどれだけの波及効果があるか?」となる


LESSON 7:
"Convergence Economy"という概念がこれから台頭する


・グローバルな規模で見た時に、多くの社会課題は複雑に絡まり合い、
 むしろ逆に"Convergence(収束)"しているような状態になった

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・こうした状況下では、パブリック、ビジネス、ソーシャルという3つの
 セクターがサイロにはまって動いても、絶対に課題は解決できない。
 セクターをまたがるWIN-WINを作り出して活動をすることが大事であり、
 有効なSolutionは必ずセクター間の協働が含まれるような時代となる

・アクセンチュアの調査によれば、グローバルな企業のCEOの93%は
 「社会のSustainabilityは自社の戦略の一部だ」と答えていて、78%が
 セクターを超えた協業が不可欠と答えるような時代が既に来ている

・この時代に生きる社会起業家として、Convergence Economyの時代に
 何ができるかを考えるべき。(ちなみに、このテーマの議論のときに
 クロスフィールズの活動をこの文脈で紹介したら、教授やクラスメイト
 から「それはInnovativeなインパクトモデルだ!」とお褒めの言葉を
 沢山もらえ、グローバルに通用するモデルだとの手応えを得ました!)


以上、長々とはなりつつも、それぞれはあまり深く書けなかった
感じですが、僕の学んだ「7つのレッスン」を書かせてもらいました。

なお、いまの7つは授業から学んだことですが、世界中から集まった
社会起業家のクラスメイトからも、沢山のことを学ぶことができました。

たとえば衝撃的だったのは、南アフリカから来たGareth。(下の写真の左側)

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彼は失業率が50%を超す南アフリカで失業者支援の事業をやって
いるのだけど、とにかく優秀で知識も豊富で、驚きの連続でした。
授業に関連することや、僕の事業のことで悩み相談をすると、

「その領域についてはBain&Compnyがつくったこのフレームワーク
 がとても参考になったよ。参考になるリンク、送っておくね」
「難しい問題だね。でも、先月のHarvard Business Reviewの
 論文に、Daichiが使えそうな経営の考え方が書いてあったよ」

とか、スラスラと答えが出てくるのです。こんなにビジネスセクター
での知識・経験を活かしてソーシャルビジネスを経営してる人間に、
僕はあまり日本では出会ったことがない気がします。そして、知識
だけでなく、この短期間でもヒシヒシ感じるくらいの素晴らしい
リーダーシップを持っている人間なのです。そしてビックリなのは、
彼がまだ創業3年目の28歳で、特にビジネススクール経験もないこと。
ホント、世界には嫌になるほどスゴい奴がいるものですね。。。


こんなクラスメイトに囲まれながら、Social Entrepreneurshipなる
ものについて、吐き気が出るほど学習・議論し続けるという6日間。

創業5年目となって、いちど事業や自分自身を振り返ってみたかった
僕にとっては、(ちょっとハードでしたが)本当に最高の時間でした。
改めて、送り出してくれたクロスフィールズのメンバーには感謝を
したいと思うし、言葉だけではなくて、これからの事業のなかで
学びを経営に活かしていくことでこそ、感謝を示したいと思います。

また、今回の学びは、僕やクロスフィールズの中で閉じてしまって
はいけないと思っています。年明けくらいには、別途、今回の学びを
興味のある人たちと共有しながら深めていくような報告会も開催して
みたいと思っているので、関心ある方はぜひご参加下さいませ!
(自分にプレッシャーをかける意味でも、ここで宣言しました。笑)

では、長々とこの文章にお付き合い頂いた方々、
どうもありがとうございました!

NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715

※ 当記事はNPO法人クロスフィールズ代表小沼の個人的著述です。
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