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もう世界は辺境から変わっている

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先週は日本企業のエグゼクティブの皆さんと一緒にインドを訪れ、ムンバイとバンガロールを1週間かけて回ってきた。

社会的企業(社会課題を解決するというミッションを持った企業)を中心に、7団体とのディスカッションを行うとともに、スラム・農村・ゴミ収集場などといった現場を訪問してきた。プログラムとしての成果はまた別途報告するとして、今回のインド滞在で僕がつかんだ感覚を記憶が新しいうちに書き留めておきたい。

7年前の本が描いた景色が、現実のものに

辺境から世界を変える

個人的にも親交のある加藤徹生さんが2011年に書かれた『辺境から世界を変える』(ダイヤモンド社)という名著がある。発展途上国の辺境地域から、社会課題に当事者性を持つ起業家たちがこれから世界を変えていくであろうというメッセージが、事例とともに力強く紹介されている。

7年前にこの本を読んだ時には、その斬新な世の中の切り取り方に興奮を覚えながらも、「たしかにそうなっていく可能性もあるかもな」という程度の感覚だったことを覚えている。

あれから7年。今回一気にインドで7団体と対話をするという貴重な経験をしてみて、あの本が示唆していた未来はすでにやってきていて、「もう世界は辺境から変わっている」ということを実感したというのが、今回の訪問での一番の感想だ。

遠隔診療がインド農村部の医療サービスを革新

今回訪問したすべての団体を紹介することはできないが、たとえばNeurosynaptic社。医療へのアクセスが難しい地域に住む人たちに対し、テクノロジーを駆使した遠隔診療で適正な医療を提供することに2002年から取り組んでいる社会的企業だ。

これまでに2,200人のヘルスワーカー(医師ではない)を組織し、辺境地域に住む5,000万人もの人たちに対して遠隔での医療サービスを提供してきている。ヘルスワーカーが携帯する専門キットには35種類の診断ツールが入っており、24種類もの診断行為が可能だ。

これによって、村落部に住む人たちはわざわざ遠い病院に行かなくても質の高い医療が受けられる。それだけでなく、病院の側にとっても高い投資をして分院を出さなくても幅広い人々に対して医療サービスを提供できる。また、診療データはすべてクラウド上に蓄積されて分析することができるので、病院としてそのデータを活用して更に医療の質を高めることが可能だ。

ちなみに今回はデモも体験させてもらったが、患者の心音や心拍数をリアルタイムで確認することができるなど、まるでSFの世界にいるかのような気分になるほどだった。

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↑CEOのSameer氏が実演した肺活量検査の様子。遠隔でリアルタイムにスマホにグラフが表示される


やはり驚くべきなのは、この最先端のテクノロジーを活用したサービスが、インド人の起業家の手により、インド農村部の人たちに幅広く届けられているという事実だろう。今回一緒に訪問した日本企業のエグゼクティブたちも、彼らの取り組む事業のあまりの先進性に、何度も感嘆の声が漏れてくるほどだった。

僕自身はあまりこの分野に専門性があるわけではないが、これから更に高齢化が進んで医療アクセスの困難さが社会課題となる日本でも、Neurosynaptic社が提供するような技術は必要とされてくるはずだ。莫大なニーズがあり、また規制も日本ほどに強くはない発展途上国の「辺境」から生まれたイノベーションが、日本の社会課題を解決するようになる日はきっと遠くないはずだ。

第4次産業革命が発展途上国の現場に味方している

2011年の創業以来、クロスフィールズはアジア各国の社会的企業とさまざまな協働をさせてもらっているが、特にここ数年のインドの社会的企業の発展は目覚ましいものがある。

今回はNeurosynaptic社の他にも、さまざまな起業家がイノベーションを起しつつある現場に足を運んできた。IoTを駆使して乳業分野に革命を起している社会的企業や、ゴミ処理からクリーンエネルギーを生み出そうとしている社会的企業など、どれも驚かされるものばかりだ。

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↑IoTのウェアラブルデバイスが付いた牛は、いつ妊娠して搾乳が可能になるかクラウド上で管理できる

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↑スラム地域や集合住宅のゴミ捨て場で、その場でバイオガスを発生させている


共通していたのは、まだ日本ほどビジネス上の仕組みやインフラがしっかりとしていないところに、部分的に最先端のテクノロジーが組み込まれていることだ。そして、そこから産業構造や社会構造を変えるような大きな変革が生み出されつつある。

完全に私見だが、やはり第4次産業革命なるものが、この急速な変化の土台にあるように思う。

IoTやAIといった第4次産業革命時代のテクノロジーには、大規模な設備投資を必要としないという側面がある。つまり、発展途上国の辺境の起業家たちにも、最先端の技術を活用するチャンスが一気にめぐってきていると考えられないだろうか。

インドのモディ首相はそのことをすごく分かっていて、様々な政策を通じて社会的企業が各地でイノベーションを起こすための手助けをしている。多くの起業家たちが政府の後押しを受けながら、辺境の地で最先端のテクノロジーを活用して社会課題を次々と解決しようとしているのだ。

整いつつある、社会課題をビジネスにするエコシステム

そして、もう1つ。こうした社会課題解決のエコシステムが出来上がりつつあるということも大きい。

今回訪問させてもらったAavishkaarは、社会的企業に特化して投資を行うベンチャーキャピタルだ。既に300億円規模のファンドを集め、20社以上のエグジットに成功しており、利回りも脅威の122%を誇っているという。僕が6年前に訪れたときには全くこんな規模ではなかったが、もはや社会課題を解決するという行為自体が、インドでは産業として成り立ってきているということだろう。

また、ムンバイにあるTata Institute of Social Sciencesでは社会起業家に特化した修士号のコースが開設されるなど、この分野での人材育成も一気に進みつつある。こうした動きに政府による後押しも加わって、社会課題解決型のビジネスが生まれて育っていく仕組みが一気に整備されてきているのだ。

辺境からこそイノベーションが生まれる時代に

イノベーションとは、研究開発の拠点を持つ先進国で生まれるものであり、途上国ではその廉価版のサービスや製品が広がっていくというのが、これまでの世界の流れだった。

でも、これからその流れは徐々に、でも確実に逆転していくように思う。

さまざまなインフラが整っておらず、明確な社会的ニーズがある辺境地域においてこそ、第4次産業革命時代のテクノロジーは威力を発揮する。そして、そんな「辺境」からこそ、イノベーションが生まれていくのだ。

発展途上国や農村部といった今日的な「辺境」が世界の中心となり、先進国や都市部といった地域こそが「辺境」になっていくような未来の世界が、もうそこまで来ている。


発展途上国の社会的企業と日本企業をつなぐ役割を持つクロスフィールズは、これからの時代にいったいどんな価値を発揮できるのか。そのことを、これからゆっくりと考えていきたい。(とはいえゆっくりもしていられない気がするけれど…)

NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715

※ 当記事はNPO法人クロスフィールズ代表小沼の個人的著述です。
※ 2016年9月2日(金)に初の著書が発売になりました。
   『働く意義の見つけ方―仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)
    ☆ Amazonランキング キャリアデザイン部門ベストセラー1位を獲得
    ☆ ハーバード・ビジネス・レビュー読者が選ぶベスト経営書2016 年間17位
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