ルワンダが「アフリカの奇跡」と呼ばれるに足る3つの理由
- Day:2019.02.02
- Cat:NPO関連エッセー

25年前に起きたジェノサイド(大虐殺)の悲劇を乗り越えて安定した経済発展を遂げつつあるこの国は、日本では「アフリカの奇跡」や「アフリカのシンガポール」とも呼ばれるようになっている。この国がいかにしてこの奇跡を成し遂げ、また、実際いま何が起きているのかは、個人的にもずっと関心があった。そんなこともあり、今回は念願かなっての訪問だった。
「でも、たしかにルワンダは国際的なマーケティングは上手いけど、実際は大したことないんじゃないの?」
実は訪問前には、そんな懐疑的な気持ちもあった。が、今回の滞在を経た僕の結論としては、いろいろな意味で「ルワンダは間違いなくスゴい国」というものとなった。
たった1週間しか滞在しておらず理解も知識も大変限られている分際で恐縮ではあるものの、昨年のインド訪問記に続き、僕自身が直感的に感じたこの国のスゴさについて、3点に絞って書き残しておきたい。
1.行政のバックアップによるスタートアップの隆盛
ルワンダ共和国は面積が四国の1.5倍程度の海にも面していない内陸国で、人口も1,200万人程度という国だ。そんなアフリカの小国で、現大統領であるカガメ氏の強力なリーダーシップのもと、特にテック系スタートアップの分野で目を疑うような面白い動きが起きている。
たとえば、こちらはZiplineというドローン・ベンチャー。

下の離着陸の映像(クロスフィールズのメンバーの声が思い切り入っちゃってますが…)を観てもらうと分かるように、超カッコいいデザインのドローンを時速150キロで飛ばしているスタートアップだ。
↑離陸時
↑着陸時
何を運んでいるかというと、なんと、運んでいるのは血液製剤。政府と連携して、インフラの発達していない地域の20を超える診療所に、血液製剤をタイムリーに効率よく輸送している。

Ziplineは本社をアメリカ西海岸に置く米国企業で、行政が非常に協力的なこの国で実証実験を行うことを決め、2016年からルワンダで実際にサービスを開始している。先進国では規制が厳しくて実証まで踏み込めないところを、ルワンダならではの行政による全面的なバックアップによって突破することができているようだ。
ちなみに、作業場にはノリノリの音楽ガンガンに流れていたり、オフィスやプロダクトのさまざまなところでデザインが洗練されてたりして、まるでシリコンバレーのスタートアップが突如現れたかのような印象を受けた。バカみたいだけれど、とにかく「超カッコよかった」というのが単純な感想だ。

続いて紹介したいのが、Babylという遠隔診療を行うスタートアップ。フィーチャーフォン(日本でいうガラケー)でも使える簡易な遠隔診療のサービスが特徴だ。

こちらは本社を英国に置くスタートアップで、サービスの親和性などから、ルワンダを2カ国目の進出先に選んだのだという。すでに彼らの予想を大きく上回る勢いで成長しており、人口の5分の1にあたる200万人がサービスに登録するに至っているという。
下の写真は、洗練されたオフィスから僻地にいる患者さんの診療を行っているルワンダ人看護師さん。医療というベーシックかつ重要なインフラが、テクノロジーの力でものすごいスピードでラストマイルに届くようになっているというのは、何か胸を打つものがあった。

さて、この2社に共通するのは、行政とともに産業を創っていくという姿勢だ。
Babylのルワンダにおけるサービス立ち上げをリードしてきた医師のパトリック氏は、「サービス開始と同時に、肝となる国の保険制度をルワンダ保険省と一緒になって設計してきた」と語る。こうした行政の協力的な姿勢が、世界中のテック系スタートアップにとって非常に魅力的に映っているのだと思う。
無論、ここで書いた2社のような動きがルワンダの至るところにあるとは言い難く、いまはまだ局地的に始まっているという段階だ。だが、まだまだ任期の残るカガメ大統領の積極的な姿勢が続く限り、こうした動きは更に加速していくように僕には思えた。
個人的には、日本のスタートアップにもルワンダで実証実験をするような動きが出てきたら面白いと感じた。また、大企業にはそうした動きを様々なリソースを活用して後押ししてもらいたいと期待したい。
2.ベンチャー×NGOで成し遂げるコレクティブ・インパクトの萌芽
先ほど紹介した2社は外資系だったが、ルワンダ自国発のスタートアップも、少しずつではあるが生まれ始めている。
その代表格が、今回1日かけて現場訪問もさせてもらった、与信サービスを手がけるFinTechスタートアップのExuusだ。東アフリカに拠点を置く若きベンチャーキャピタリスト寺久保拓真氏が率いるLeapFrog Venturesが、ルワンダ初の投資先として選んだことでも注目を集める企業だ。

Babylと同じく、フィーチャーフォンでも簡単にできるモバイルマネーでの預金機能と、それをベースにした与信サービスの提供を目指している。まだ実証段階だが、上手く行けば一気にルワンダ国内やアフリカ各国にサービスが拡大していくことも期待できるとのことだ。ちなみに、上で紹介した2つの企業と同じく、この分野に対する行政からのバックアップも非常に力強い。
なお、僕が特に面白いと感じたのが、ExuusがNGOとのコラボレーションを積極的に行っているということだ。Exuusはサービスをパイロット地域で展開するにあたって、World VisionやCareといった国際NGOと共同でプロジェクトを行っているのだ。

Exuusは当初、テクノロジーとソリューションはあるものの、農村部のどのコミュニティで実証実験を行えばいいのか悩んでいた。そこで、農村部での豊富な知見とネットワークを持つNGOと協働して、どの地域で展開するのかを決定していったのだと言う。また、サービスをローンチするにあたっても、NGOが培ってきた農村部でのコミュニティや人的資本を活用しながらNGOと共同でプロジェクトを行っているそうだ。

農村部のカスタマーに向けてアプローチしたいスタートアップのニーズ。そして、Financial Accessを提供することで農民たちのエンパワーをしたいと考えるNGO。2つの組織のVisionとが一致しているのだ。そして、その動きを行政が積極的に一緒に仕掛け、そして後押しするという構図になっている。
これは、今月号のDiamond Harvard Business Reviewで特集された「コレクティブ・インパクト」の動きそのものだ。もしかするとこうした動きは、小回りの聞くルワンダのような国家でこそ加速していくのかもしれない。
また、これまで「コレクティブ・インパクト」や「企業とNGOの協働」という言葉を耳にすると、普通は企業としての主体者は主に伝統的な大企業が想起されていたと思う。が、今後さまざまなダイナミックな動きを生み出していこうと考えると、実はベンチャー企業とNGOとの協働にこそ、新しい価値を生み出す可能性があるように思う。
社会課題の解決がビジネスチャンスと捉えられるようになってきた昨今、スタートアップがNPO/NGOとともに「コレクティブ・インパクト」を生み出していく動きは、もしかするとこれからの時代の潮流になっていくのではないだろうか。クロスフィールズとしても、今後は日本のスタートアップがこうした動きを加速するサポートにも着手していけたらと思う。
余談だが、今回紹介したような社会課題解決を目指すスタートアップの起業家たちは、日本ではソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)などと呼ばれそうなものだ。だが、昨年訪問したインドでも今回訪問したルワンダでも、彼らがそのように呼ばれることはほとんどなく、単純に起業家というカテゴリーでくくられている。特に新興国においては、社会課題の解決こそがユニコーンを生み出すようなビジネスチャンスとなることが当然の見解になっており、あえて「ソーシャル」という言葉は使わないとのこと。これもこれで、すごく考えさせられる気付きだった。
3.国全体が抱えるトラウマと、それを乗り越える人間の強さ
最後に、この国が乗り越えてきたジェノサイド(大虐殺)について。

「ホテル・ルワンダ」という映画を観た人は日本でも多いと思うが、この国では1994年に人口の10-20%にあたる100万人もの人々が犠牲になるという大変な惨劇が起きた。まだそれからまだ25年しか経っておらず、多くの国民がそのジェノサイド(大虐殺)の記憶を持っている。
今回の訪問では、ジェノサイド記念館や実際にジェノサイドの舞台となってしまった教会を訪問するなどして、この国でどのようなことが起きたのかを少しでも理解しようと努めた。
そのなかで、縁あって、壮絶な経験を乗り越えてきた女性起業家の方の話を伺う機会があった。話を伺った直後は、経験のあまりの壮絶さに、僕含め、参加者一同なにも言葉が出ないような状況だった。ここで詳しく記述することは避けるが、昨日まで隣人や友人だと思っていた人の信じられないような凶暴性を目撃することや、あまりにも酷い経験をすることが、人間はおろか教会や神も信じられなくなるようなトラウマ状態へと人間を落とし入れるということを彼女に教えてもらった。
彼女は続けた。「でも、憎しみを心に宿していると、その憎しみが自分をむしばんでいくのだと気づいた。だから、夫や子どもを殺した人のことを許すことで、私は自分を救っていったのよ」。そして、大きく微笑んだ。いま彼女は、自身がトラウマを乗り越えた経験を活かし、そうした経験を他の女性たちにも提供したいという想いから起業をしたのだという。
人間は愚かだが、同時に、それを乗り越える強さも持っているということを、この女性起業家のお話を聞いて思い知った。人間は、おそろしく強い。
そして、無数の人たちがこのようにしてトラウマと悲しい歴史を乗り越えたことにより、この国はいま復活を遂げようとしているのだ。この国で起きたことを奇跡と呼ばずして、何を奇跡と呼ぶのか。
1週間の滞在を経て、ルワンダという国とそこで暮らす人々に、大いなる畏敬の念を抱くようになった。この国は、本当にスゴい。
NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715)
※ 当記事はNPO法人クロスフィールズ代表小沼の個人的著述です。
※ 2016年9月2日(金)に初の著書が発売になりました。
『働く意義の見つけ方―仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)
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