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社会課題大国インドで起きる、ソーシャルイノベーションの2つの潮流

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2年ぶりにインドを訪問し、デリーとバラナシでとても濃い世界に浸ってきた。本当に良い時間で、前回の訪問とはまた違う、さまざまな学びがあった。

1週間という限られた滞在ではあったけれど、NGO・社会的企業・投資機関など7団体のリーダーたちと対話をするとともに、3団体の活動現場を訪問することができた。個別の訪問記録も書きたいところだけど、全体として印象に残ったことに絞って、2回に分けて書いてみたいと思う。

前編は、社会を良くするための2つの潮流について。

社会課題大国と言われるインドは、社会課題を解決する動きでも世界で最先端を行っていると僕は思っている。そんなインドで、今回は2つの異なる力強い潮流を感じたように思う。いつもながらかなりマニアックな内容になるけれど、それぞれ、書いてみたい。

1. 社会性の高いスタートアップを育むエコシステム

日本でもメディア露出が増えているインドのベンチャーキャピタル(以下、VC)にAavishkaarという組織がある。社会課題解決を志向するスタートアップに絞った投資を行うなかで10億ドルの資産を運用する、世界でも例を見ない規模のインパクト投資機関だ。

今回はこのAavishkaarのパートナーと、その投資先であるGoBOLTというスタートアップの経営陣と対話をした。GoBOLTはマシーン・ラーニングを活用した物流の最適化を目指しており、これからIPOを目指す非常に勢いのあるスタートアップだ。

GoBOLTのビジネスモデル自体もとても将来性がある先進的なものなのだが、ここで注目したいのは、これからIPOを目指す段階のスタートアップが、財務的なKPIだけでなく、社会インパクトのKPIを強く意識をしながら経営を行っているということだ。彼らのプレゼンを聞いていると、売上やトラックの所有台数の話と同時に、それ以上に、雇用するドライバーの生活がどれだけ向上したかに本気であることが伝わってきた。

日本でスタートアップの経営者と話をしていても、社会インパクトに対する意識が強い経営者はとても多いと思う。ただ、一方で「いまのGrowthステージでは投資家のプレッシャーも強くて、正直、社会インパクトとか言ってる余裕ないんだよね」という話をよく耳にする。VCなどからの短期的な財務面のプレッシャーが強く、長期的に追いかけざるを得ない社会インパクトは意識しづらい環境があるのだと思う。

では、インドではどうなのか。僕は、日本とは逆の動きが起き始めていると感じた。Aavishkaarをはじめとした社会性の高いVCがスタートアップに働きかけ、早い段階から社会性を持つよう経営者にプレッシャーを与えているのだ。今回話を聞かせてもらったGoBOLTのCOOも、「Aavishkaarから投資を受けたことで、経済性と社会性のバランスを取りながら経営をすることに対して意識が向かっている」と語っていた。

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↑AavishkaarのパートナーTarun氏

日本においても機関投資家を中心にESG投資の文脈が盛り上がっており、上場企業に対しては社会性を意識するように働きかける動きが活発化している。一方で、スタートアップに対する投資の動きにおいては、こうした流れはまだ限定的だ。いまスタートアップでの不祥事が世界的に広がっているなかで、日本のVCにもAavishkaarのようなプレイヤーが現れてくることを期待したい。

ちなみに、Aavishkaarのパートナーは、僕のようなもともとNGOの世界にいる人間には耳が痛い話も言っていた。

「もともと社会性の高い経営者に、事業をスケールさせる能力を教えるのはとても難しい。一方で、事業をスケールさせる能力のある経営者に社会性を教えることは可能なことだ」

ぐうの音も出ない言葉だが、その通りなようにも感じる。。。その意味でも、VCがスタートアップ経営者に新しい形でのプレッシャーを与える意味は大きいように思う。


2. 新しい価値観の投げかけに力を入れるNGO

上に書いたように、特にインドにおいては、テクノロジーを駆使したスタートアップが社会課題の解決を大きなスケールで推進する動きが急速に加速している。そうしたなか、NPOやNGOが社会課題を解決するプレイヤーとしての存在感を落としているかと言うと、実はそうではないようだ。

今回訪問した団体に限ってみると、僕の印象としては、インドで活動する骨太なNGOたちは、事業のスケールアップを目指すよりも、世の中に新しい価値観を提示することに力点をシフトさせようとしているように思える。

たとえば今回対話させてもらったGoonjというインド最大規模のNGOの創業者Anshu氏は、もはや宗教家なのではないかと思うほど、独自の思想を深め、その哲学を雄弁に語ってくれた。彼だけでなく、他のNGOのリーダーたちも哲学レベルの力強い信念を掲げていて、それぞれの活動にはその思想が細部にわたって体現されていた。むしろ、現場での活動をツールとしながら、新しい価値観や哲学を社会に対して発信しているという印象を持った。

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↑Goonjの創業者Anshu氏

スタートアップが資本主義の仕組みのなかで課題解決を進めていくなか、ある意味では、「既存の社会システムや価値観を覆すような新しい物事の見方」を提示することこそが、現場に最も近い位置にいるNGOの新たな役割だと定義され始めているのかもしれない。

では、インドのNGOでは実際にどのような価値観が語られているのか。それぞれの団体が独自の哲学を掲げているように見えて、そこには共通項があるように僕は感じた。「Dignity」と「Community」という2つが、通底するキーワードだったように思う。

Dignityとは、日本語では「尊厳」を指す。貧困状態にいる人たちが生計を立てられるようになることで、自分の人生に対してOwnershipを持てるようになることだ。でも、彼らが語るDignityはそこだけに留まらない。「支援を与える」「支援を与えられる」という二項対立を超えて、すべての人がそれぞれの存在を人間として尊重し合える関係性を持てるようになることが、いま必要になっているのだと言う。

そして、Community。インドでも、都市部を中心に西洋的な個人主義(Individualism)が広がっていて、それに抗うことが大切だという考え方だ。日本をはじめ先進国が辿ってきた、コミュニティが分断されて個人主義に支配された状態を、どのように避けていくのか。どのようにして経済発展とあたたかい社会のつながりを両立させるのかが、大きなテーマになっているようだ。

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↑インドの農村に住む子どもたち

ちょっと僕にはこれ以上言語化できないものの、このような活動に通底した思想が、インドのNGOには横たわっているように感じた。なお、僕が驚いたのは、ここで語られている内容が、日本の文脈においても非常に重要なテーマであるという点だ。

Leap Frog現象という言葉は、一般的に「新しいテクノロジーの活用が途上国で先進国よりも速いスピードで進むこと」を指す。だが、ある意味では、テクノロジーのLeap Frogが進むなか、社会システムや価値観においても、途上国が一気に先進国よりも先に進んでいっていく時代に入っているように思える。


さて、長々と書いてしまったが、インドにおけるソーシャルイノベーションは、2つのレイヤーで異なる動きが進んでいっているように思えた。この2つの世界観から、日本が学べることは多いように思う。

後編では、インドにおいてテクノロジーがどのように社会を変えているのかを書いてみたいと思う。ここまで読んでもらったマニアックな方々は、どうぞお楽しみに。

(写真提供:笹島康仁)

NPO法人クロスフィールズ
小沼大地(@daichi0715
※ 当記事はNPO法人クロスフィールズ代表小沼の個人的著述です。
※ 2016年9月2日(金)に初の著書が発売になりました。
『働く意義の見つけ方―仕事を「志事」にする流儀』(ダイヤモンド社)
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